Sachikoイギリスでサウナの経営をしたいです。儲かりますか?
私もそれがしりたくで、今年もノコノコとブライトンのサウナサミットに参加しました。
ビーチにノコギリを一本持ち込んで、そこから手探りでサウナ小屋を建てた人がいる。
3年半後、その人はケント州に4拠点を構えていた。
ブライトン、サウナサミット2026 では、サウナ経営者たちが明かした落とし穴、イギリス各地でサウナやバーニャ(ロシア・ウクライナ式の蒸し風呂)を経営する6人が集まった。
その時のパネルディスカッションをかいつまんだのがこちらの記事です。サウナの経営者しか語れない泥臭い話。
僕は日本のスーパー銭湯をロンドンで開きたいと本気で思っているので、正直メモを取る手が止まらなかった。今日はそのエッセンスを、これから温浴ビジネスを覗いてみたい人向けに噛み砕いて紹介します。
ロンドンでサウナ屋って、そもそも儲かるの?なんか大変そう…
経営たち6人が本音でぶっちゃけてたから、順番にまとめます。
落とし穴の話がとにかくリアルだった。彼らの話をかいつまんでブログにします。
6人のスピーカーは彼らです。
- ロビン・バートレット/ シースクラブ・サウナ 創業者
- マックス・ニューポート/ フィンマーク テクニカル・ディレクター
- チャーリー・ダックワース/ コミュニティ・サウナ・バス ディレクター
- ニッキー・テスラ/ サウナ・ソーシャル・クラブ 共同創業者
- アレックス・ラザレフ/ バスハウス創業者

始まりはみんな「無謀」だった

まず驚いたのが、サウナ経営者は誰ひとりとして「綿密な事業計画を練り上げてから」始めていない。
冒頭のロビンという人は、シースクラブ・サウナの創業者。彼の第一歩は、文字どおりビーチにのこぎりを持ち込んで小屋を作ることだった。マーゲートという海辺の町で、まさにゼロから。
今ではケントに4拠点、最近フォークストンに一番大きな拠点を作ったそうです。
裏庭にサウナ、まわりはまだゴミだらけ
ロンドンのハックニー・ウィックでコミュニティ・サウナを立ち上げたチャーリーの話も強烈でした。
2021年、パンデミックの真っただ中。物件を借りるのに8ヶ月かかったらしい。だって「裏庭にサウナ置かせてください」なんて、大家からすればかなり変な要望ですからね。
しかも、ようやく借りられた敷地はコロナで出た産業廃棄物でまだいっぱい。
その状態で火を入れた。
「立ち上げられたこと自体が奇跡で、大興奮だった」と彼は振り返っていました。最初の1年はとにかく学びと失敗の連続。毎週なにかしら修正して、文字どおり火消しに追われる日々。でも、面白いのがここ。その「毎週変わる感じ」を、お客さんはむしろ気に入ってくれたんだそうです。

「試作品のつもり」が本気になった瞬間
サウナ・ソーシャル・クラブのニッキーは、もっと控えめに始めたクチ。低予算で、正直「こんなの需要あるのかな」と半信半疑のまま、いわばお試しとしてオープンした。コンセプトは「交流の場の代わりになる場所」。友達と、お母さんと、あるいは一人で来て、家でも職場でもない第三の居場所として過ごせる空間。
フタを開けたら、人が来た。それも、めちゃくちゃサウナに来た。
最悪のケースを想定して準備していたら、想定を軽く超えるベストケースになってしまい、そこからずっと設備の改善に追いつくのに必死だったとか。
ちなみに彼女いわく、今やUK最大のサウナInstagramアカウントを運営しているそうです。スタートが謙虚なほど、伸びしろがデカい。そういうことなのかもしれない。
一番の落とし穴は「サウナ本体」じゃなく「水風呂」

で、ここからが本題というか、僕が一番「うわ、これ知らなかったら⚪︎ぬな」と思ったパート。
登壇者に、商業用アイスバス(水風呂)を専門にするアーバン・アイス・トライブのライアンという人がいます。
彼がはっきり言っていたんです。運営していて一番管理が難しいのは、サウナじゃなくて水だ、と。
え、サウナ屋なのに主役はサウナじゃないの?
そこがワナなんだよね。みんなお金をサウナ本体に使い切っちゃって、水風呂にかける予算が残らない。でも実はそこが命取りになる、って話。
水風呂には、サウナと同額の資金をかけろ
ニッキーが去年のサミットで聞いて衝撃を受けた言葉を紹介していました。「アイスバスのセットアップには、サウナと同じ金額をかけるべき」。彼女は新しい拠点でこれを実践したそうです。
理由はシンプルで、来場者数って想像以上に増えるから。
人がたくさん入れば、その分だけ水は汚れる。水が濁ったら一発アウトです。
「清潔な水風呂がない店」という悪い評判は、一度つくと取り返しがつかない。
ライアンが言うには、経営者は当初の予想より good(好調)にやることが多くて、ドアをくぐる人数を過小評価しがち。だから水の処理能力が追いつかなくなる。
水風呂を軽く見ると、比喩じゃなく刑務所行き
サウナ用の木材を扱うフィンマークのマックスの言葉が、これまた刺さった。
予算が厳しくなると、経営者はコスト削減であれこれ削り始める。更衣室みたいな「あいだの空間」から削られていくんだけど、追い詰められると水の品質にまで手をつけようとする人がいる、と。
何を削っていいかの判断基準は「これが失敗したら自分は刑務所に入るか?」だと。
そして水は、失敗すると本当に刑務所行きになる。衛生管理を怠って感染症が出れば、これは冗談で済む話じゃない。安全性はコストじゃなくて絶対条件。
ここ、日本でスーパー銭湯を考える僕にとっても背筋が伸びる指摘でした。
物件が見つからない問題、どう戦うか

会場から「土地を追い出されてしまった。物件の探し方を教えてほしい」という切実な質問が出ました。
これ、温浴ビジネスで一番きつい部分らしい。
チャーリーの会社は、確立した運営者になった今でも、物件探しに専任スタッフを置いている。大家、自治体、デベロッパーを回り続ける。彼のアドバイスは身も蓋もなくて、「これは数のゲーム」。
常に複数のリース交渉を同時に走らせておいて、そのうち成立するのは1割くらい、と割り切る。最近はコールドな交渉にAIをかなり活用しているとも言っていました。
鉄橋下という穴場
ニッキーのアプローチが面白かった。屋外や自治体所有の土地ではなく、鉄道の高架下(レイルウェイ・アーチ)を狙ったんです。
これのどこがいいか。彼女が借りたアーチには、素敵な中庭が付いていて、しかも三相電源・排水・水道が最初から引かれていた。三相電源っていうのは、大型の商業サウナを動かすのに必要な強い電気のこと。ふつう後から引くと工事費がバカにならない。
それが最初からあれば、資金の少ないスタートアップには大助かり。古代ローマの浴場みたいに天井が高くて空気の容積も大きい。「サウナ置けるとは思わない場所」が、実はドンピシャだったりする。発想の転換ですね。
自治体(カウンシル)は「相手の課題を解決する」提案に弱い
チャーリーが誰かから聞いたという知恵が、これまた実用的でした。カウンシルとの交渉では「相手にとっての問題を解決してあげろ」と。
具体的にはこう。自治体はたいてい開発戦略という文書を持っていて、その中に「ウェルネス(住民の健康)」が入っていることが多い。だからその文書を手に入れて、自分の事業を戦略の中に位置づける。
「あなたたちのこの目標、うちが解決できますよ」という形で提案する。逆に相手の戦略に絡んでいないと、優先順位の一番下に回される。ちなみに「カウンシルなら安く借りられるのでは」という期待は禁物で、実際は市場相場の家賃をしっかり求めてくるそうです。
社会貢献という側面は、あくまでケーキの上のイチゴのような扱いです。
固定賃料か、レベニューシェアか
ここは意見が割れていて面白かった。レベニューシェア(売上の一部を家賃として払う方式)を選んだニッキーは、大家が自分の成功を「自分ごと」として応援してくれるのが利点だと言う。相場は売上の10〜15%くらいが公正なライン、とのこと。
一方チャーリーは慎重派。彼のところは地域貢献型企業(CIC)なので、売上を最大化するのが唯一の目的じゃない。レベニューシェアだと大家に事業を詮索されるリスクもある。
だから彼は「軌道に乗ってキャッシュフローができたら、基本は固定賃料を選ぶ」。ただし大家と本当に相性がいいなら別、と。要するに、正解はひとつじゃなくて、自分のビジネスの性格しだいってことですね。
お金がない、どう資金調達する?

「2台目のサウナを増やしたいけど、お金が怖い」という質問にも、各社のリアルな工夫が出てきました。
ニッキーのところは、外部資金に頼りすぎないやり方。週2日の定休日(月曜と火曜)だけを使って、4ヶ月かけて中2階を増築し、その上にサウナと更衣室を作った。まとまった期間を休業する余裕がなかったから。「完全にはおすすめしないけどね、けっこうストレスだったし」と正直に言っていたのが逆に信頼できる。
それから、既存のお客さんに年間会員を前もって買ってもらう「前売り」。ただでお金をくれと頼むんじゃなく、前払いしてもらって最後の建設費に充てる。加えて British Business Bank(英国ビジネス銀行)のスタートアップ融資も活用したそうです。これ、融資だけじゃなくてビジネスメンタリングが10回くらい付いてくるのが良かったとか。チャーリーも「お金には支配が付いてくる」からと外部資金を避け、サウナの収益を辛抱強く再投資してきた派。
全部自己資金でやるのも、全部借りるのも、どっちも怖いんだけど…
ニッキーの言葉が的確でさ。「外部資金で自分を引き伸ばしすぎず、かといって全部内部でやって自分を壊すな」。バランスなんだよね。
もうひとつ、地味に効くのが会員モデル。週1回以上通いたい人が月額の口座引き落としで入会する。これが安定したキャッシュフローになって、季節変動への保険にもなる。しかも会員は「特別扱いされてる」と感じてロイヤルティが上がる。財務的にも心理的にもおいしい仕組みです。
サステナビリティは「きれいごと」じゃなく生存戦略

会場から「持続可能性についてもっと考えるべきでは」という鋭い質問が飛びました。ここでチャーリーが言った一言が、ちょっと怖かった。
「この事業は、本質的にエネルギーと水の商売」。そのどちらも、これから深刻になるテーマなんです。彼は「2050年のロンドンは水が枯渇すると報じられている」と。エネルギーコストも水道料金も、実際どんどん上がっている。つまりエコは理想論じゃなくて、事業を続けるための現実的な条件になりつつある。
木材の裏側と、世界初のバイオガス・サウナ
木材のマックスによると、サウナ材の調達は地政学とも直結している。たとえばベラルーシ産の木材に制裁がかかると、一気に供給が揺らぐ。ある種の安い木材は、熱帯雨林を伐採して作られていたり労働搾取が絡んでいたりするので、彼の会社は手を出さないそうです。
大手サプライヤーは持続可能な森林から調達している、というのは覚えておくといい豆知識。
チャーリーのところは、使う木材を家具産業の廃材でまかなっている。さらに、生ごみを発酵させた「世界初のバイオガス・サウナ」を試作中で、数ヶ月後に稼働予定とのこと。
バケツシャワーの水量を30リットルから10リットルに減らしたら、お客さんはほとんど違いに気づかないのに水使用量はガクッと減った、なんて話も。
小さな工夫の積み重ねなんですよね。
クレーム対応のリアル(暑すぎ・寒すぎ・裸がいい、水着着用必須)

最後は、どの商売にもあるクレームの話。温浴ならではで笑ってしまった。結局のところ、寄せられる不満は「暑すぎ」か「寒すぎ」か、あとは「裸がいい/裸ははずかしい」に集約されるらしい(笑)。
ニッキーのところで長く続いた要望が「サイレント・サウナが欲しい」。
でも同時に「おしゃべりしたいのに、しーっとされて気まずい」という真逆の声もある。
彼女はこれを、静かな部屋とおしゃべりOKの部屋を分けることで解決しました。悪いフィードバックの多くは、単なる理解不足から来る。だから毎回セッションの最初に2〜3分のブリーフィング(説明)をして、「ストーンにバケツ一杯かけないでね」みたいな基本を伝える。これだけでクレームがぐっと減るそうです。
バーニャのアレックスの話も印象的でした。ギフト券をもらった人が、何の予備知識もなく来て「思ってたのと違う」となり、体験全体が台無しになって星1つ、みたいなケース。だから彼が出した結論は「まず教育すること」。初めての人が、自分がどこへ行き何を得るのかを正確にわかっている状態を作る。それだけで悪い意味での驚きを減らせる。
良い評判を「貯金」する習慣
個人的に一番グッときたのが、ニッキーのこの提案。否定的なレビューは、時間も感情も注いでいるぶん本当に堪える。でも彼女は、入ってくる良いレビューをちゃんと祝うようにしているそうです。
サウナを出るときの笑顔、頬を赤らめた顔、メールやGoogleに書いてくれた感謝の言葉。そういうのを「はいはい、また褒められた」と流さずに、じっくり味わう。小さなノートに書き留めたり、メールをフォルダに保存したりして、落ち込んだ日に読み返す。悪いレビューへの反論についても、退却のための「金の橋」を架けるように相手の望みを理解すると、意外と取り下げてもらえる、なんて交渉術も出ていました。
ちなみに締めくくりに紹介された最近の星1つレビューが最高で。ギフト券の期限が切れて半年後に「やっぱり行きたい」と言ってきた人を丁重にお断りしたら、「この店は失礼だ」と書かれたそうです。こういうの、経営してると絶対ありますよね。
聞き終えて思ったのは、ロンドンのサウナ経営は、キラキラしたブームの裏に地道な水管理と物件探しと資金繰りがぎっしり詰まっている、ということ。でも同時に、弓のこ一本から4拠点まで駆け上がった人がいる世界でもある。日本のスーパー銭湯という文化を、この土地でどう根づかせるか。水にちゃんと投資して、地域の課題を解決して、良い声を貯金しながら。僕の夢は、今日この6人からもらったメモの上に立っている気がします。

