ブライトンサウナサミット2026の公演、Therme UKのCEOディビット・ラッセル氏の公演がメインになっています。
フィンランドには、車よりサウナのほうが多い。そんな話を聞いたことありませんか。
なぜか英国で爆発している。しかも発祥は「馬を運ぶトラックの荷台のサウナ」。
「これは静かなブームじゃないな」と思ったので、今日はその中身をまるっと共有します。
公共サウナが2年で3倍に増えてる。数字で見せますね。
「horsebox sauna(ホースボックス・サウナ)」とは、もともと馬を運ぶための箱型トレーラー、つまり日本でいう「馬運車」を改造して作ったサウナのことです。馬そのものと直接の関係はなく、「馬を運んでいた車を再利用している」から、その名前のまま呼ばれています。
なぜ馬運車がサウナになったのか。理由は主に4つあります。まず構造がぴったりだったこと。木やアルミで囲われた頑丈な箱で断熱もそこそこ効くため、薪ストーブとベンチを入れればそのままサウナ小屋になります。ゼロから建てるより安くて早い。次に「動かせる」こと。トレーラーなので車で牽引すれば、海辺でも森でもフェスティバル会場でも運べます。英国のサウナは屋外の自然の中で、海や湖を水風呂代わりに楽しむスタイルが人気なので、この移動性との相性が抜群でした。
さらに、乗馬・競馬文化が根強い英国では中古の馬運車が安く手に入りやすいという事情も。古くなった馬運車を買ってDIYでサウナに改造する個人経営者が続々と現れました。
つまり「安い・頑丈・動かせる・手に入りやすい」の4拍子が揃った結果、馬運車サウナは英国特有の風景になったのです。

まず数字で見る、英国サウナブームのリアル

ふわっと「流行ってる」と言われても、いまいちピンと来ないですよね。
だから最初に数字を出します。ここがいちばん説得力あるので。
英国サウナ協会(British Sauna Society)によると、一般の人が使える公共サウナは、2023年1月時点でたったの45か所でした。それが2025年1月には147か所。2年で3倍以上です。とくに海辺や森にポンと置かれる「ワイルドサウナ」「ポップアップサウナ」と呼ばれるタイプは、2025年5月の時点で213か所。前年の104か所からきっちり倍増しています。
移動式サウナのビジネスも56社が確認されていて、2018年からほぼ毎年、数が倍々に増えているそう。ここまで来ると、もう一過性の流行りとは言いにくい。
文化になりかけている、というのが正直な肌感です。
「サウナはもう一つのパブ」になりつつある
面白いのが、英国の人たちがサウナを「社交の場」として使い始めていること。パブの代わり、みたいな感覚ですね。中ではDJナイトをやったり、ヨガをやったり、詩の朗読会をやったり。とにかく自由。
集まりで印象的なエピソードを聞きました。あるサウナで、たまたま居合わせたのが18歳の学生と、90歳近いおばあちゃんと、話し手の3人だけ。
最初はお互い赤の他人。なのに1時間半、海に入ったり出たりしながら、人生観をずーっと語り合っていたそうです。70歳の年の差で、世代を超えて知恵を交換していた。こういうのが英国のあちこちで自然発生している。ちょっといい話ですよね。
始まりは、まさかの「馬運車サウナ」だった

ここで気になるのが、そもそもなんで英国のサウナって「馬を運ぶトラック(ホースボックス)」の中に作られてるの? という話。これ、英国特有のちょっと変わった現象なんです。
ルーツをたどると、ひとつの芸術プロジェクトに行き着きます。「Warmth(ウォームス)」という活動で、始めたのは美大出身のアーティスト。もともとはフィンランド北部の農場で畑仕事のあとにサウナに入る、という体験がきっかけだったそう。「巨大な病院を建てるより、小さくても本物の癒やしを届けたい」。そんな発想から、ロンドンのコンサートホールの外にフェルトのテントを建てて、無料でサウナを開いたのが出発点でした。
2015年から2019年にかけて、モアカム、湖水地方、グラスゴー、ブライトンと、サウナ文化と縁もゆかりもない街に、ただポンと現れる。すると不思議と人が集まってくる。通りがかりのロシア人が「サウナ? なにそれ」と言いながら、その場で服を脱ぎ始めた、なんて話も。公共の場で自分の体との付き合い方が変わる、この感じがたまらないんだ、と話していました。
ブライトンのビーチサウナが火をつけた
この流れが2018年、ブライトンの海辺のサウナ「Beachbox」につながります。子どもの学校で出会った女性2人が意気投合して始めたもの。海をそのまま「水風呂」に使う発想ですね。地元の市議会には最初「ヒッピーの集まり」くらいに見られていたのが、いまや市の観光担当が「英国じゅうに広がった海辺サウナブームの火付け役」と公式にコメントするまでになりました。8年でこの変わりよう。すごくないですか。

なぜフィンランド発の文化が、ここまで刺さるのか

そもそもフィンランドって、9年連続で「世界一幸せな国」に選ばれています。集まりには駐英フィンランド大使も登壇していて、その理由のひとつがサウナだと話していました。
フィンランド大使いわく、サウナのルールは基本「自分次第」。何分入るとか、いつ出るとか、細かい決まりはない。自分の体の声を聞いて、暑いなと思ったら出る。それだけ。守るべきなのは2つだけで、「入る前と後にシャワーを浴びる(衛生)」と「まわりの人を尊重する」。シンプルでしょ。
あと車とサウナの数の話も出ました。大使の言葉をそのまま借りると、フィンランドにはサウナが約330万個、車が約370万台あるらしい。「車よりサウナが多い」はちょっと盛られた伝説かも、と本人が笑ってましたけど(良い話だから残しておきたい、とも)。ともあれ、暮らしにそれだけ溶け込んでいるってことです。
でも小さいサウナが増えてるだけでしょ? 規模の話じゃないよね?
いやいや、桁違いのやつが来ます。5億ポンド級の巨大施設がついに、イギリス上陸!
マンチェスターに、5億ポンド級の巨大温浴施設が来る

草の根の小さなサウナが増える一方で、真逆の「超大型」も動いています。「Therme」という会社が、マンチェスターに巨大な温浴施設を建設中。投資額はおよそ4.5〜5億ポンド。日本円だと数百億円規模です。ちょっと想像つかない金額。
場所はトラフォード・センターという大型ショッピングモールの隣。かつて展示会場だった跡地です。オープン予定は2028年後半。中身がまた規格外で、プールが10個、ウォータースライダーが18本、サウナとスチームルームが25室。しかも波の打ち寄せる「英国初の屋内オールシーズン・ビーチ」まで作るらしい。館内は一年中33℃をキープする設計で、初年度だけで170万人の来場を見込んでいます。
「客を奪い合う」んじゃなくて「市場を広げる」
ここで小さなサウナのオーナーたちは当然、不安になりますよね。「大手に客を全部持っていかれる」と。でもTherme側のトップは、集まりでこう言っていました。ゴミ箱を水槽に見立てて「これが今の英国サウナ市場の水位。うちが入ると水位が上がる(=市場そのものが大きくなる)」と。
近所のサウナには週3〜4回通う。大型施設には年に3〜4回、90分かけて車で行く。客層も通い方も違うから、食い合うんじゃなくて、全体のパイが広がる。そういう考え方ですね。研修プログラムで人材を育てて、いずれ地域のサウナに散っていく、という循環も生まれる。実際この施設だけで700人近い雇用が必要になるそうです。
ついに「サウナ×演劇」まで登場

もうひとつ、攻めてるなと思った動き。
この夏のエディンバラ・フェスティバル・フリンジ(世界最大級の芸術祭)に、英国初の「シアター・サウナ(劇場サウナ)」が登場します。8月6日から31日まで、毎日開催。
作ったのは演劇のプロたち。80人が入れて、照明とサラウンド音響を完備した、本格的な劇場仕様のサウナです。これも世界初。彼らいわく「サウナと劇場はそっくり」なんだと。見知らぬ人同士が同じ空間で、リアルタイムに強い体験を共有する。焚き火を囲むような感覚。
ちなみに欧州大陸では「アウフグース(Aufguss)」という、熱風とタオルとパフォーマンスを組み合わせた演目が競技会になるほど盛ん。日本でいう「熱波師」。その舞台を英国にもちゃんと作ろう、という試みでもあります。
2030年、英国サウナはどこへ向かうのか

集まりの最後は「2030年のサウナはどうなる?」という議論でした。ここで出たのが「肉屋・パン屋・バーニャ」という例え。すごく腑に落ちたので紹介します。
昔、街には肉屋とパン屋しかなかった。そこにデパートが来て、いくつかの個人店は消えた。さらに郊外の大型店が来た。でも今も、肉屋もパン屋もデパートも郊外店も、ぜんぶ残っている。なぜなら「パン屋でしか買えないもの」を人が学んだから。海辺の小さなトレーラーサウナは「肉屋・パン屋」。都市の大型店や、マンチェスターの巨大施設は「デパート・郊外店」。役割が違うから共存できる、という話です。
もうひとつ印象的だったのが、ニューヨークの「バーニャ(banya)」の話。
約100年の歴史をもつ成熟した業界で、運営者に「どこで儲けてるの?」と聞くと、答えは「サウナと水風呂はトントン。稼ぎは飲食と、いかに長く居てもらうか」。リラックスして良い時間を過ごしていると、20ポンドのボウルもコンブチャも高く感じない。ここ、日本のスーパー銭湯の「食事処でゆっくり」に通じるものがありますよね。
お金目当ての人が増えて、質が下がったりしないのかな…?
そこは業界も気にしてる。むしろ「本物」をどう守るかが次の3年半のテーマだって。
実際、パネルでは「サウナを愛してるんじゃなく、お金だけを見て入ってくる人が増えている」という懸念も正直に語られていました。危険な施工でお客さんを放置する業者も出てきている、と。過剰な規制は誰も望んでいないけれど、気楽さと安全のバランスをどう取るか。ここが英国サウナの、次の宿題みたいです。
ロンドンで暮らしていると、この盛り上がりを日々の中で感じます。海辺の馬運車から、5億ポンドの巨大施設まで、振れ幅がとにかく広い。日本の「銭湯でととのう」文化が何百年もかけて育ってきたことを思うと、英国はまだ始まったばかり。だからこそ、これから何が生まれるのか。正直、めちゃくちゃ楽しみなんですよね。日本の湯文化が、この国でどう化けるか。僕はしばらく、この波を近くで眺めていようと思います。


