サウナの中でスタンドアップコメディー。朝9時からDJが重低音を鳴らし、熱波師がタオルを振り回す。
そんな場所が2026年の夏、スコットランドのエジンバラに出現しました。
その名も「サウナシアター(Sauna Theatre)」。英国初の劇場型サウナです。で、僕は8月22日から24日まで、3日連続で通ってきました。この記事では現地で見てきた中身、日本人が戸惑うルール、そして英国サウナ市場の今をぜんぶ書きます。
サウナで演劇…?想像がつかない。日本のサウナとは別物なの?
完全に別物!でもサウナ好きなら間違いなく刺さるよ。三日間の実体験を解説するね。
サウナシアターとは?英国初の「劇場型サウナ」の正体

サウナシアターは、エジンバラ・フリンジの会場のひとつ「Summerhall」の裏庭に建てられた、80人収容の特設サウナ劇場。仕掛けたのは、演劇監督のジェームズ・グリーヴと舞台デザイナーのルーシー・オズボーンが立ち上げた「サウナ・セッションズ・アーツ・クラブ(Sauna Sessions Arts Club)」というプロデュース団体です。
彼らの着眼点が面白い。劇場とサウナって、構造がそっくりなんですよ。すり鉢状のひな壇席、中央に視線が集まる配置、みんなで非日常に没入する空間。サウナのストーブ(電気)を「舞台」に見立てれば、そこはもう劇場だろうと。そう、これ、言われてみればその通り。
スペックは本格派
中身はちゃんとガチのサウナです。木製3層のひな壇ベンチに80席。中央にはEOS製の大型ストーブ「Mega S HD」が3基(合計出力129kW)。室温は最高90℃まで上がります。(ただ実際には75度程度です。理由は後で書きます。)日本の高温サウナと同じレベルですね。しかも移動式・組立型(フラットパック式)で、解体して別の街に持っていける設計になっています。
スポンサーは2028年開業予定の巨大スパ
この企画、単発のお祭りイベントじゃありません。スポンサーには、2028年末にマンチェスターで超大型ウェルネスリゾートを開業予定の「サーム・マンチェスター(Therme Manchester)」がついています。英国ではまだ馴染みの薄いアウフグース文化を大衆に広めて、熱波師を育てて、サウナコミュニティを育成する。そのための実証実験という位置づけなんです。
アウフグースって何?日本の熱波との違い

サウナシアターの演目の核になっているのが「アウフグース(Aufguss)」です。ドイツ語で「注ぐこと」という意味。アロマ水やエッセンシャルオイルを染み込ませた氷をサウナストーブの熱い石に注いで、立ち上る蒸気(フィンランド語でいうロウリュ/レイリ)を、サウナマスターがタオルの旋回テクニックで室内に循環させる。香りと熱と音楽が一体になった、マルチセンソリーな儀式です。
ロシア発祥のサウナ、フィンランドで先鋭化したサウナ、ドイツでアウフグースが流行したのは、ドイツのサウナ室が大きすぎて、奥に座っている人にサウナの熱が行き届かなくて、人工で風を起こして熱波をおくったのが発祥。それがなぜかタオルワークと、アロマオイルのバランスを作るサウナマスターになり、踊りと熱波師を兼ねた感じになりました。
日本のロウリュとか熱波サービスと何が違うの?
ベースは同じ。ただアウフグースは香り・音楽・タオルさばきを組み合わせた「ショー」として完成されてるんだ。エンタメ度が段違いだよ。
日本でも熱波師さんのタオルパフォーマンスは人気ですよね。アウフグースはそれをさらに演出方向に振り切ったもの、と考えると分かりやすいです。英国ではこの文化がまだ未開拓で、だからこそサーム・マンチェスターが本気で普及に乗り出している、という構図です。
サーム・マンチェスターの親会社は、ルーマニアのサームブカレストです。あれがイギリスに来ると思うとワクワクしますね。2028年末に開業予定です。
実際に3日間通ってきた(8月22日〜24日)

行くことになったきっかけは、ぶっちゃけ偶然でした。
たまたまニューカッスルに出張があって、じゃあついでにエジンバラまで足を伸ばすかと。
軽い気持ちで1公演だけ観るつもりが、気づいたら3日連続で通っていました。そのくらいハマったということです。
朝9時のMorning Sauna Rave
初日はMorning Sauna Rave、朝9時開始の回へ。ガラス越しのDJブースからクラブミュージックの重低音が流れる中、アウフグースが3回入る構成です。朝からこれはどうなんだと思うでしょ。
目が覚めるどころの話じゃなかった。ロッカー、冷水風呂、シャワーの動線もよく設計されていて、Redditのレビューでも「最高の一日の始まりになった」と絶賛されていましたが、まさにそれ。9時の時点で一日分の活力を使い切りそうになる勢いでした。
一番の当たりはBUBBLE SCHMEISIS (Remixed)

3日間で一番印象に残ったのは、BUBBLE SCHMEISIS (Remixed)というコメディー演目。伝統的なロンドンのカニングタウンにある、スチームバス・公衆浴場文化をテーマにした作品で、最初は普通のスタンドアップコメディーとして始まったものを「サウナの中でやってみよう」という試みです。
ニック・カッセンバウムはロンドン出身のユダヤ系ストーリーテラーで、作品は彼が祖父(作中では「Papa Alan」)に連れられてカニングタウンのニュー・ドックランズ・スチームバス(東ロンドンに残るユダヤ系の蒸し風呂=シュヴィッツ)に通った実体験がベース。そこで出会う伝統儀式「シュマイス」(石けんの泡で相手を洗い合う風習)を軸に、ユダヤ人としてのアイデンティティと「自分の居場所」を探す自伝的な一人語りです。アコーディオンとクラリネットの生クレズマー演奏が入り、クライマックスでは実際にシュマイスの洗いが観客の前で行われます。もともとフリンジでヒットして国際ツアーまでした作品で、今回のRemixed版は本物の蒸気の中で上演する90分のプロムナード形式でした。
ですので、下記のニュードックランドサウナはロシア式と下記に書いてありますが、それは半分正解で、正確にはユダヤ系ロシア人だったみたいですね。

ここで面白い発見がひとつ。
サウナ内の演目って、基本は10分以内なんです。90℃の室内に観客を長く置けないから。ところが尺の長いスタンドアップだとそうはいかない。実際、この演目のときはサウナ室の温度を65℃くらいまで下げていました。コメディーの尺と室温のトレードオフ。劇場型サウナならではの制約で、運営目線で見るとかなり興味深いポイントでした。
75℃で観る10分の寸劇
短い寸劇系の演目も観ました。ある回はこんな話。体型にコンプレックスを持つ女性が登場して、そこにゴリゴリに筋トレをしていそうなムキムキの男性が「自信の持ち方」を教え始める。スクワットだ、腕立てだ、ボディメイクだと畳みかけた結果、女の子は参ってしまってサウナ室を飛び出していく。その後お姉さんが現れて「うちの妹どこ?」「妹はちょっと精神的に参っていて…」で幕。話自体はサウナで実際ありそうな話なんですが、75℃の熱の中でみんな汗だくで観ているという状況が、妙な没入感を生むんですよね。これは劇場では味わえない。
ちなみに、イギリスでは人の体型やタトゥーに関して、良くても悪くてもコメントするのは避けるというのがマナーになってます。
イマイチだったのはラジオドラマ系
正直に書くと、ハマらなかった演目もあります。
朗読・ラジオドラマ系。ヴァージニア・ウルフの小説『波』を立体音響とアロマ熱波で表現するAUFGUSS x THE WAVESのような文学系演目ですね。僕には英語がむずかしすぎた。
ただこれは僕だけの問題でもないようで、英語ネイティブの批評家からも「登場人物の名前すら分からない」「36分の上演時間で小説の物語を追うのは不可能」といった声が出ていて、Time Outの星評価も60%程度にとどまっていました。一方で「ストーリーを期待せず、瞑想的な音と香りとして楽しむなら素晴らしい」というレビューもあって、要は期待値の設定次第だと思います。
インターナショナルで賞をとったアウフギーサーのショウ
エジンバラのサウナシアターで、欧州のトップ熱波師が日替わりで登場する「International Aufguss Masters」を観た。
その日の出演者のひとりが、ルーマニア人のアウフグースマスターだった。彼が蒸気とタオルと音楽で語ったのは、同郷の彫刻家ブランクーシの物語。
1926年、代表作「空間の鳥」は米国税関に「芸術ではなく工業金属製品」と扱われ関税をかけられたが、彼は裁判で勝ち、抽象彫刻は史上初めて法廷で「芸術」と認められた。
そして100年後の2026年、その彫刻はニューヨークで1億ドルを超える値で落札された——誰にも理解されなかった芸術の物語を、英国でまだ誰も知らない芸術(アウフグース)で語る、二重に沁みる演目だった。
彼の彫刻の写真を見せながら、アウフギースをするという感じでした。(言葉足らずですみません。サウナシアターはカオスです😅)
日本人が戸惑う英国サウナのルール3つ

ここ、日本からの旅行者が一番知りたいところだと思うので、しっかり書きます。
ルール1:水着は絶対
英国のサウナは水着着用が絶対義務です。全裸はナチュリスト専用枠を除いて厳禁。ちなみにドイツなど欧州本土は逆に全裸文化(FKK)で、衛生上の理由から水着持ち込み禁止の施設すらあります。日本は施設によって二極化。同じ「サウナ」でも国によってここまで違うんです。
で、僕の失敗談。水着とタオルは持参していたんですが、2日目に水着を忘れまして。現地でレンタルしました。貸してくれたのは、どうやら誰かが忘れていった水着のおさがり😅 まあ、洗ってあるとはいえ、ちょっと複雑な気持ちにはなりました。忘れ物にはご注意を。
ルール2:No skin on wood
英国・欧州共通の鉄則が「No skin on wood」。木のベンチに素肌や汗を直接触れさせない、というルールです。足元まで覆う大判タオルを敷くのがマナー。日本の「お尻の下にサウナマット」の感覚で行くと足りません。タオルは1枚£3でレンタルできました。
ルール3:黙浴はしなくていい
日本のサウナは黙浴文化が根強いですよね。英国は真逆。サウナは社交の場という位置づけで、会話も音楽もDJイベントも大歓迎です。最初は落ち着かないかもしれませんが、慣れるとこれはこれで楽しい。ちなみに会場の外のバーでは、エジンバラ産のクラフト発酵飲料クワス(Kvass)やノンアルコールビールが売られていました。サウナ後の一杯までセットで文化になっている感じです。
正直なデメリットも書いておく

いいことばかり書いても仕方ないので、気になった点も並べます。
まず身体的な負荷。三日もいると水分、電解質、ビタミン補給と大変気を使いました。
7℃の熱と冷水プールの温冷交代は、慣れていない人にはかなりきついです。
実際、めまいや極度の疲弊を起こした観客の報告がありますし、強力なエッセンシャルオイルの蒸気で目が沁みて涙が出るという指摘も。サウナ初心者の方は、体調と相談しながら無理のない範囲で楽しんでください。
演劇としての弱点。熱中症防止のため、10〜12分おきに観客全員が屋外に出てクールダウンする構造なんです。つまりどんな演目も強制的に3幕に分断される(BUBBLE SCHMEISIS (Remixed)だけは別で、サウナ室が65度ぐらいまでの低音で、最後だけ75度にしていた様子)。
物語重視の演目には明らかに不利で、批評家の評価が伸び悩んだのもここが一因です。先に書いたとおり、長尺コメディーでは温度を65℃前後まで下げる対応も取られていて、サウナー目線だと「ちょっとぬるい」瞬間があるのも事実。
あとは観客側の問題。事前のメール案内があったにもかかわらず、「サウナ」を比喩的な演劇表現だと勘違いして普段着で来てしまう人や、タオルを敷かずにベンチに座ろうとする人が一定数いたそうです。新しい文化の立ち上げ期あるあるですね。
明らかに水着を用意してなくて、下着でサウナに入ってる人がいたような😅
開業者目線で見る、英国サウナ市場の今

ここからは少し視点を変えて、ビジネスの話。僕はロンドンで日本式スーパー銭湯を開業したいという野望を持っているので、今回の視察はその下調べも兼ねていました。
公共サウナが2年で4倍以上に
英国サウナ協会(British Sauna Society)の調査によると、英国の公共サウナは2023年の約45施設から2025年半ばには200施設超に増加。さらに2026年2月のグリニッジ大学との共同研究では600カ所以上という報告もあります(集計基準が違うため数字に幅があります)。市場調査会社Grand View Researchは、英国サウナ市場が2030年まで年率約7%で成長すると推計。世界市場も2025年の約9億5,000万ドルから2033年に約15億ドルへ拡大する予測です。要するに、いま英国はサウナブームの真っ最中なんです。
日本のサウナブームと同じような感じ?
数字だけ見ると英国のほうが急成長。だからこそ£5億を投じる大型プロジェクトまで動いてるんだよ。
£5億のTherme Manchesterが2028年末に来る
その象徴がサーム・マンチェスター。総事業費5億ポンド、敷地28エーカー(サッカー場約18面分。一部報道では30エーカーとも)、屋内ガラスパビリオン65,000平方メートル、サウナ室30室以上、年間200万〜300万人の来場を見込む巨大プロジェクトです。当初は2025年開業予定でしたが、許認可などの遅れで現在は2028年末開業予定。利用料は4〜5時間で£48程度が想定されていますが、地元Redditでは「家族で行くと£100超えでは」「高所得者向けになるのでは」という懸念の声も出ています(いずれも2026年8月時点の情報。最新の開業時期や料金は公式発表を確認してください)。
さらにサーム・グループは、英国人口の90%が車で90分以内に施設へアクセスできる配置を目指す「90:90戦略」を掲げていて、グラスゴーなどでも開発を進めています。サウナシアター自体も、モジュール構造を活かして英国各地を巡回するサウナ芸術フェスティバル化が計画されています。
開業には自治体ライセンスが必要
ちなみに英国で商業サウナを営業するには、自治体への「特別治療ライセンス(Special Treatment Licence)」の申請が必要です(ロンドン地方自治体法1991等に基づく制度)。無許可営業には最高£2,500の罰金も。制度の詳細は自治体ごとに異なるので、実際に開業を検討する場合は、必ず該当自治体の窓口や専門家に確認してください。
そして今回の視察で一番の学びがこれ。夏はサウナに行きたがる人が減るんです。だからこそイベントでの集客が本当に大事になる。アウフグース、ストーリーテリング、サウナ内での演劇。サウナを「入る場所」から「体験する場所」に変える仕掛けの数々は、開業を夢見る身として最高に刺激的でした。

タイプ別・サウナシアターの楽しみ方

最後に、どの演目・どの選択肢が合うかをタイプ別に整理します。
エンタメ重視派なら、Morning Sauna Raveか夜のThe Hottest Club in Town。夜の部では英国人熱波師が銀色のNASA宇宙服とヘルメット姿で「地球を救う宇宙飛行士」を演じ、ハリー・スタイルズの曲に合わせてタオルを振り回すという、Eurovision的な狂気のショーが観られたそうです。僕はコメディーのBUBBLE SCHMEISISを推します。
静かに整いたい派には、ニルス・フラームのポストクラシカル音楽と瞑想的熱波を組み合わせたAUFGUSS x NILS FRAHM系。ただしストーリーは期待しないこと。音と香りに身を委ねるのが正解です。
英語に自信がない派は、朗読系(THE WAVESなど)は避けて、音楽と熱がメインの演目を選ぶのが無難。僕の実感として、これはけっこう大事です。
2028年まで待てる派は、Therme Manchesterの開業を待つのもアリ。巡回フェス化の構想もあるので、サウナシアターが自分の街に来る日を待つという手もあります。
よくある質問

Q1. 英語ができなくても楽しめる?
音楽・熱・香りがメインの演目(Morning Raveやアウフグース系)なら問題なく楽しめます。朗読・ラジオドラマ系はネイティブでも難しいという評価だったので、避けたほうが無難です。
Q2. 水着とタオルは持参が必要?
持参推奨です。忘れてもタオルは£3でレンタルでき、水着の貸出もあります(2026年8月時点)。ただし僕のように「誰かのおさがり水着」に当たる可能性はあります。
Q3. 年齢制限はある?
サウナシアターは18歳以上限定です。家族連れの場合は、全年齢ゾーンを予定しているTherme Manchesterの開業を待つほうがよさそうです。
Q4. アウフグースとロウリュの違いは?
ロウリュは熱い石に水をかけて蒸気を発生させる行為そのもの。アウフグースは、その蒸気をアロマ・音楽・タオルパフォーマンスと組み合わせてショーに仕立てたドイツ式の儀式です。
Q5. サウナシアターは今後どこで体験できる?
解体・移設可能なモジュール構造を活かして、英国各地を巡回するフェスティバル形式での展開が計画されています。最新のスケジュールはSauna Sessions Arts Clubの公式サイトで確認してください。
3日間、汗をかきながら考えていたのは、やっぱり自分の夢のことでした。
日本の黙浴文化と、英国のソーシャルサウナ。この2つの間に、まだ誰も作っていない何かがある気がしています。ロンドンに日本式スーパー銭湯を作る日まで、この熱を忘れずにいたい。
エジンバラの75℃で、そんなことを思った夏でした。


